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消滅時効の更新(時効中断)

時効の更新(時効中断)とは、進行中の時効がある事由により効力を失うことをいいます。
時効の更新(時効中断)事由があると、それまでに経過した時効期間は、法律上無意味なものとなり、また新たに、ゼロから時効の期間が進行します。

たとえば、一般民事債権は、10年の経過によって、消滅時効にかかります。
しかし、10年経てば、何が何でも消滅する、というものではありません。
その10年間の間に債務者が一部でも弁済すれば、そのとき消滅時効は更新(中断)します。
そして、消滅時効期間は、更新(時効中断)したときからさらに10年となります。

更新(中断)事由には、以下の3種類があります。
@請求
A差押え・仮差押え・仮処分
B承認があります。

@請求

「請求」とは、裁判上の請求のことをいい、裁判上の請求には代表的なものは「訴訟の提起」ですが、これは債権者が訴状を裁判所に提出したときにその請求債権の消滅時効を更新(中断)します。
その他にも、支払督促・和解及び調停の申立てなどがあります。

例外として、内容証明郵便で催告をすると、6か月間時効の完成を延長することができます。
そして、この6か月間の中で訴訟を提起すると、時効は更新(中断)します。

※この6か月の延長は一回かぎりですから、6か月ごとに内容証明郵便を送って延長を繰り返すということはできません。

A差押え、仮差押え、仮処分

債権者が、差押え、仮差押え、仮処分の手続きを行った場合に、時効は更新(中断)します。

B承認

承認は、時効更新(中断)事由のなかで重要な作用をもっています。
承認というのは、時効の利益を受ける者の一方的な観念の通知であり、時効を更新(中断)しようとする意思が必要なわけではありません。
ただ、相手に権利があることを知って、債務承認の意思表示をすればいいのです。

承認のなかでも重要なのが、一部弁済支払猶予願い、等です。

債務者が債務の一部を弁済したときは、債務の全部について時効が更新(中断)します。

「もう少し待って下さい」などの支払猶予の申入れをすることも債務の承認となります。

債務の承認として良くあるのは、支払いに関する誓約書や債務承認書への署名捺印、または契約書の書き換え、などです。

債務の承認については、形式は特に決められておりませんので、それこそ口頭での約束であっても、債務の承認になります。

もっとも、「言った、言わない」の争いになった場合、請求する側に立証責任があるので、録音でも残っていない限り、裁判などの法的な請求をすることは難しいと思います。




時効完成後の債務承認

時効が完成した後に、弁済を行ったり、債務承認書や支払い猶予を求める書面への署名などをしてしまうと、仮に時効が完成していることを知らなかったとしても、「時効の利益の放棄」として、時効援用権を放棄したことになり、カウントが振り出しに戻ります。

最高裁 昭和41年4月20日 判決(請求異議事件)

「消滅時効完成後に債務の承認をした場合において、そのことだけから、右承認はその時効が完成したことを知ってしたものであると推定することは許されないと解すべきである。
しかし、債務者が自己の負担する債務について、時効が完成したのちに、債権者に対し債務の承認をした以上、時効完成の事実を知らなかったときでも、相手方は、債務者はもはや時効を援用しないとの期待を抱くから、信義則上、事後その債務についてその完成した消滅時効の援用をすることは許されないものと解するのが相当である。」

ただし、仮に外形上が「債務の承認」と認められるような場合であっても、「払わなければ取立てに乗り込むぞ!」等と脅迫的な言動があったような場合には、信義誠実の原則や公平の原理によって、時効更新(中断)自体が否定されることもあります。

脅迫による債務承認であるとして否定された例

債務者が、自己の負担する債務について時効が完成した後に、債権者に対し債務の承認をしたとしても、債権者及び債務者の各具体的事情を総合考慮の上、信義則に照らして、債務者がもはや時効の援用をしない趣旨であるとの保護すべき信頼が債権者に生じたとはいえないような場合には、債務者にその完成した消滅時効の援用を認めるのが相当といわなければならない。
[福岡地裁 判決 平成13年3月13日]




時効の停止とは

時効の停止とは、権利者が権利行使をすることが不可能又は著しく困難であるような一定の事情があるとき、一定の期間だけ、時効の完成を猶予する制度のことをいいます。
「時効の更新(中断)」においては、更新(中断)事由が生じた時点で、それまでに進行した期間が消滅し、更新(中断)事由がなくなった時点で、時効期間の進行がゼロから開始しますが、「時効の停止」においては、停止事由が生じても、それまでに進行した期間は消滅せず、停止事由が終了した時から、再び期間の進行を再開します。

民法第158条
(未成年者又は成年被後見人と時効の完成猶予)
時効の期間の満了前六箇月以内の間に未成年者又は成年被後見人に法定代理人がないときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は、その未成年者又は成年被後見人に対して、時効は、完成しない。
未成年者又は成年被後見人がその財産を管理する父、母又は後見人に対して権利を有するときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は後任の法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は、その権利について、時効は、完成しない。
民法第159条
(夫婦間の権利の時効の完成猶予)
夫婦の一方が他の一方に対して有する権利については、婚姻の解消の時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
民法第160条
(相続財産に関する時効の完成猶予)
相続財産に関しては、相続人が確定した時、管理人が選任された時又は破産手続開始の決定があった時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
民法第161条
(天災等による時効の完成猶予)
時効の期間の満了の時に当たり、天災その他避けることのできない事変のため第百四十七条第一項各号又は第百四十八条第一項各号に掲げる事由に係る手続を行うことができないときは、その障害が消滅した時から三箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。



時効更新や時効利益放棄の後の時効援用

弁済や債務承認、裁判手続での確定、などによって時効進行のカウントは降り出しに戻ります。

時効完成前に予め時効の利益を放棄することは出来ないとする定め(民法146条)があることから、反対解釈により、時効完成後であれば、時効利益を放棄することが出来ます。

時効完成後に債務承認した場合には、その後に時効援用することは許されないとされています(昭和41年4月20日 最高裁判決)が、永続的なものではなく、放棄がなされると時効は再び進行を開始し、再度時効が完成すればその時効を援用することができます(昭和45年5月21日 最高裁判決)。

つまり、時効完成前であっても時効完成後であっても、どちらの場合でも、新たに時効の進行が開始しますので、以後再び時効期間を経過すれば、その時点で時効援用をすることは可能です。