TOP > 慰謝料(慰謝料請求権)の消滅時効

慰謝料(慰謝料請求権)の消滅時効

故意または過失によって、他人の権利や利益を侵害してしまった場合、不法行為(民法第709条・第710条)となり、物損や治療費などの具体的な損害賠償をしなければなりません。
もちろん、精神的苦痛などの非財産的損害に対しても損害賠償(慰謝料)の支払義務を負います。

もっとも、相手の受けた被害が、どの程度の具体的損害になるのかは不明であることが多く、加害者としては、損害賠償の請求を受けるかどうか,いかなる範囲まで賠償義務を負うか、等が不明なまま、極めて法的に不安定な立場に置かれることが多くあります。
そのため、不法行為に基づく慰謝料請求権については、3年という短期消滅時効が定められています。


令和2年3月31日までに生じた債権

旧 民法第724条
(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から20年を経過したときも、同様とする。

令和2年4月1日以降に生じた債権

旧 民法第724条
(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。
旧 民法第724条の2
(人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「三年間」とあるのは、「五年間」とする。

最高裁 昭和49年12月17日 判決
民法724条の短期消滅時効の趣旨は,損害賠償の請求を受けるかどうか,いかなる範囲まで賠償義務を負うか等が不明である結果,極めて不安定な立場に置かれる加害者の法的地位を安定させ,加害者を保護することにある。

被害者(債権者)からの慰謝料請求に対する消滅時効

もちろん、原則として、他人に損害を与えた場合には、賠償することが大原則です。
しかしながら、様々な事情で返済不能なまま相当な期間が経過してしまい、支払える目途も立たない場合、
唯一、援用の意思表示のみで債務を免除してもらえる制度が「消滅時効」なのです。

なお、債務不履行に基づく損害賠償請求権については、時効期間は10年間です。

不法行為に基づく損害賠償請求に関しては、加害者および加害の事実を知った時から3年、となりますので、被害者が加害者をしらず、または、加害の事実を認識していない場合には、不法行為の時から20年は時効が進行しません。

この、絶対的に不変な「20年」という期間のことを「除斥期間」といいます。

ただし、裁判での判決や調停成立などによって確定した債権については、確定した日より10年間は時効が完成しませんので、ご注意下さい。


「損害及び加害者を知った時」とは?

被害者が加害の事実を知ったとして、現実問題、加害者の住所や氏名などがわからず、現実的に請求することが困難な場合があります。
また、不法行為が発生した当時において、被害者が損害の発生を現実に認識していない場合もあります。
このような場合において、不法行為の事実が発覚してから3年以上が経過していれば、被害者は慰謝料請求は出来ないのか?加害者は時効の援用が出来るのか?という問題があります。


この点に関しては、以下のとおり、「現実」に住所氏名を知り、「現実」に損害の発生を認識出来たときからしか、時効は進行しないとする最高裁の判例があります。


最高裁 昭和45年7月15日 判決
権利を行使することができるとは、一般に、権利を行使することについて法律上の障害がなくなったというだけでなく、権利の性質上その行使が現実に期待することができることを要すると解される。

最高裁 昭和48年11月16日 判決
民法724条にいう「加害者を知りたる時」とは、同条で時効の起算点に関する特則を設けた趣旨に鑑みれば、被害者に対する損害賠償が事実上可能な状況のもとに、その可能な程度にこれを知った時を意味するものと解するのが相当であり、被害者が不法行為の当時、加害者の住所氏名を的確に知らず、しかも当時の状況において、これに対する賠償請求権を行使することが事実上不可能な場合においては、その状況が止み、被害者が加害者の住所氏名を確認したとき、初めて「加害者を知りたる時」にあたるものというべきである。

最高裁 平成14年1月29日 判決
民法724条にいう「被害者が損害を知った時」とは、被害者が損害の発生を現実に認識した時をいうと解すべきである。
被害者が損害の発生を現実に認識していない場には、被害者が加害者に対して損害賠償請求に及ぶことを期待することができないが、このような場合にまで、被害者が損害の発生を容易に認識し得ることを理由に消滅時効の進行を認めることにすると、被害者は、自己に対する不法行為が存在する可能性のあることを知った時点において、自己の権利を消滅させないために、損害の発生の有無を調査せざるを得なくなるが、不法行為によって損害を被った者に対し、このような負担を課すことは不当である。
民法724条の短期消滅時効の趣旨は、損害賠償の請求を受けるかどうか、いかなる範囲まで賠償義務を負うか等が不明である結果、極めて不安定な立場に置かれる加害者の法的地位を安定させ、加害者を保護することにあるが、それも、あくまで被害者が不法行為による損害の発生及び加害者を現実に認識しながら3年間も放置していた場合に加害者の法的地位の安定を図ろうとしているものにすぎず、それ以上に加害者を保護しようという趣旨ではないというべきである。