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消滅時効の起算点

消滅時効は、権利を行使することができる時を起算点として進行します。

民法第166条
(債権等の消滅時効)
債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
 2項債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から二十年間行使しないときは、時効によって消滅する。
 3項前二項の規定は、始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし、権利者は、その時効を更新するため、いつでも占有者の承認を求めることができる。

時効の起算点と時効期間は、以下のようになっております。

時効の起算点
確定期限付の債務 → 確定期限の到来時
不確定期限付の債務 → 不確定期限の到来時
期限の定め無き債権 → 債権が成立したとき
債務不履行による損害賠償請求権 → 本来の債権について履行請求できるとき
契約解除による原状回復請求権 → 契約解除時
返還時期の定めの無い消費貸借 → 債権成立後、相当期間経過後
不法行為に基づく損害賠償請求権 → 被害者が損害及び加害者を知ったとき

時効の起算点の具体例は、以下のとおりです

個人や商人の貸金 返済期日が決まっているものは、その返済期日
返済期日が決まっていないものは、貸した日
貸金の利息や遅延損害金 利息は貸付日
遅延損害金は、支払期日
商売上の債権 品物の売掛金・塾や習い事の月謝は、支払期日
工事請負代金 返済期日が決まっているものは、その返済期日
返済期日が決まっていないものは、工事が完成した日
不当利得返還請求権 返還請求権の発生日
損害賠償請求権 不法行為(交通事故・不倫・傷害・器物破損)に基づく損害賠償は、
被害者または法定代理人が損害および、加害者を知ったとき
債務不履行(安全配慮義務や婚約不履行など)に基づく損害賠償は、
不履行が発生した日
労働債権 労働者の給料は、給料日
残業代は、残業代の支給予定日
解雇予告手当ては、解雇日
退職金は、退職日
会社役員の報酬は、請求できる日
短期払いの賃金(労基法の適用外賃金)は、 請求できる日
土地建物の賃貸借に係る債権 家賃・地代は、支払期日
敷金・保証金は、請求できる日


お金の貸し借り等の場合の消滅時効の起算点

時効の起算は「最終弁済期」からとなります。
「最終弁済期」とは、一番最後の弁済予定日のことをいいます。
通常、貸金業者から借入した場合など、毎月決まった日に分割払とする定めをしていることが多いです。
そして、最後に弁済した日が「最終弁済日」であり、一番最後の弁済予定日が「最終弁済期」です。

仮に毎月末日払の定めで1月末日に支払うと、支払予定日は2月末日になります。 もしも1月末日の弁済の後、そのまま支払いしないままになっている場合、最終弁済日の1月末日ではなく、「最終弁済期」である2月末日の翌日から5年経過により消滅時効完成ということになります。

ただし例外があり、すでに期限の利益(分割払を出来る権利)を失い、残額一括払の請求を受けている状態になっていると、最後に弁済した日の翌日から5年経過により消滅時効完成ということになります。

なお、個人間の貸し借りなどで弁済期の定めをしていない事案の場合、債権発生日(お金を借りた日など)の翌日から10年経過で時効完成となります。

また、時効更新(時効中断)もしくは時効利益の放棄をしている場合は次の期間経過となります。

1)裁判で判決を取られたり、支払督促で確定していたり、または強制執行を受けている場合 判決や支払督促が確定した日(通常は判決言渡の日または支払督促発布した日から14日経過後)や差押を受けた日の翌日(判決確定後に弁済している場合は弁済した日の翌日)から10年
2)裁判上で和解をした場合(和解調書が作成された場合) その最終弁済期の翌日から10年。最終弁済期以降に弁済した場合には、その最後の弁済をした日から10年。
3)裁判外で債務承認した場合(分割弁済の契約書や合意書に署名捺印した場合など) その最終弁済期の翌日から5年。最終弁済期以降に弁済した場合には、その最後の弁済をした日から5年。



不法行為の場合の消滅時効の起算点

令和2年3月31日までに生じた債権

旧 民法第724条
(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から20年を経過したときも、同様とする。

令和2年4月1日以降に生じた債権

旧 民法第724条
(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。
旧 民法第724条の2
(人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「三年間」とあるのは、「五年間」とする。


最高裁 昭和48年11月16日 判決
被疑者として逮捕されている間に警察官から不法行為を受けた被害者が、当時加害者の姓、職業、容貌を知つてはいたものの、その名や住所を知らず、引き続き身柄拘束のまま取調、起訴、有罪の裁判およびその執行を受け、釈放されたのちも判示の事情で加害者の名や住所を知ることが困難であつたような場合には、その後、被害者において加害者の氏名、住所を確認するに至った時をもって、民法724条にいう「加害者を知りたる時」というべきである。


最高裁 平成14年1月29日 判決
民法724条にいう「被害者が損害を知った時」とは,被害者が損害の発生を現実に認識した時をいうと解すべきである。
被害者が、損害の発生を現実に認識していない場合には、被害者が加害者に対して損害賠償請求に及ぶことを期待することができないが、このような場合にまで、被害者が損害の発生を容易に認識し得ることを理由に消滅時効の進行を認めることにすると、被害者は、自己に対する不法行為が存在する可能性のあることを知った時点において、自己の権利を消滅させないために、損害の発生の有無を調査せざるを得なくなるが、不法行為によって損害を被った者に対し、このような負担を課することは不当である。
上告人は、平成4年7月9日の時点においては、被上告人の加盟社である新聞社の発行する新聞紙上に本件配信記事に基づく記事が掲載されている可能性が高いことを知ったにすぎず、本件記事が実際に掲載されたこと、すなわち同被上告人が上告人の名誉を毀損し、不法行為に基づく損害が発生したことを現実に認識していなかったというのであるから、同日をもって消滅時効の起算点とすることはできないといわなければならない。


委託を受けた保証人の求償権

保証人が主債務者の代わりに債権者に全額の支払い(代位弁済)をした場合、その時点で保証人を債権者とする「求償権」という債権が発生することになります。
つまり、時効の進行は、具体的に代位弁済をした時から開始することになります。

これは、仮に事前求償権を有している場合でも変わりません。

(委託を受けた保証人の求償権)
民法459条1項
保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、過失なく債権者に弁済をすべき旨の裁判の言渡しを受け、又は主たる債務者に代わって弁済をし、その他自己の財産をもって債務を消滅させるべき行為をしたときは、その保証人は、主たる債務者に対して求償権を有する。


最高裁 昭和60年2月12日 判決
委託を受けた保証人が弁済その他免責行為をしたことにより主たる債務者に対して取得する事後求償権の消滅時効は、その免責行為のあった時から進行し、 このことは、保証人が主たる債務者に対して事前求償権を取得した場合でも異なるものではない。